大判例

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大阪高等裁判所 平成元年(ネ)895号 判決 1990年7月10日

乙事件被控訴人(第一審原告)

大原勝弘

乙事件被控訴人(第一審原告)

椿弘人

甲事件控訴人(第一審原告)

坂本一

右三名訴訟代理人弁護士

野田底吾

筧宗憲

甲事件被控訴人、乙事件控訴人(第一審被告)

ネッスル株式会社

右代表者代表取締役

エイ・エフ・オー・ヨスト

右訴訟代理人弁護士

増田哲生

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は、全体を通じて二分し、その一を第一審原告坂本一の、その余を第一審被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  甲事件

1  第一審原告坂本一

(一) 原判決中、第一審原告坂本一に関する部分を取り消す。

(二) 第一審被告は、第一審原告坂本一に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五九年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。

(四) 仮執行宣言

2  第一審被告

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は第一審原告坂本一の負担とする。

二  乙事件

1  第一審被告

(一) 原判決中第一審原告大原勝弘、同椿弘人に関する部分のうち、第一審被告敗訴部分を取り消す。

(二) 右第一審原告らの請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも右第一審原告らの負担とする。

2  第一審原告大原勝弘、同椿弘人

本件控訴を棄却する。

第二当事者の主張と証拠

原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。但し、次の付加、訂正、補足をする。

一  主張の訂正等

1  原判決四枚目表五行目の「原告大原は、」から同六行目の「であったが、」までを削り、そこに次項を挿入する。

「第一審原告大原は、高校卒業後別会社に勤務した後、昭和四一年三月第一審被告会社に入社し、姫路工場生産部に配属され、開袋及び焙煎作業ついで抽出作業に従事し、昭和四六年一〇月一日付けで旧組合(分裂後第一組合)の専従となったが、」

2  同四枚目表九行目の「収集作業を命じた。」を「収集作業を単独で、また通常の勤務時間帯とは異なる時間帯に行うよう命じた。」と、同枚目裏二行目の「同原告が」を「前記のような経歴をもつ同第一審原告が」と、それぞれ改める。

3  同四枚目裏六行目冒頭の「集じん装置もない。」を「集じん装置もなく、スレート葺であるため夏は高温となり冬は寒いうえ、採光にも問題があり、圧迫感も伴った。」と改める。

4  同五枚目裏一行目の次に次項を挿入する。

「第一審原告大原が、右のような異常な形態での勤務を離れ、通常のシフト勤務に復帰したのは昭和六二年一一月であった。」

5  同五枚目裏九行目の「昭和五八年四月二二日付けで、」を「昭和五八年三月二二日付けで、同年四月二二日から」と改める。

6  同六枚目表末行の「裁断作業をも命じた。」の次に次項を挿入する。

「そして、これに伴い同部長らは、表紙なしでメモ用紙ののりづけを行え、パンチカードの穴のあいていない部分でメモ用紙を作れ、等の単に同第一審原告に苦痛を与えるためのものとしか考えられない指示を与えた。」

7  同六枚目裏七行目の次に次項を挿入する。

「その他、第一審被告の従業員らは、同第一審原告に対し、外部からの電話をとりつがない等の種々のいやがらせをした。」

8  同八枚目表八行目の「民法七〇九条」を「不法行為」と、同表一〇行目の「本件訴状送達の日の翌日を「本件訴状送達の日の翌日である昭和五九年六月五日」と、同枚目裏三行目から同四行目にかけて「原告大原が組合専従者であったが、とあるのを「第一審原告大原の経歴、同第一審原告が」と、それぞれ改める。

9  同二二枚目裏二行目から同三行目にかけて「同(4)の事実は認める。」とあるのを「同(4)の事実のうち、第一審原告椿が、第一審被告主張の各業務に従事したことは認める。」と改める。

二  当審での主張

1  第一審被告の責任原因についての第一審原告らの主張

第一審被告は、会社ぐるみで第一組合員である第一審原告らに対し暴力的に弾圧する目的をもって不法行為を行ったから、第一審被告は、民法七〇九条に基づき責任を負うべきである。

仮にそうでないとしても、第一審被告の従業員らが、第一審被告の事業の執行につき、第一審原告らに対し不法行為を行ったから、第一審被告は、民法七一五条一項に基づき責任を負うべきである。

2  右主張についての第一審被告の認否

右主張はいずれも争う。

理由

一  当裁判所の判断は、原判決の理由第一ないし第四(ただし原判決の理由「第五」は、後記のとおり「第四」と訂正する。

そうすると、原判決の理由第一ないし第四は、同二五枚目表二行目から同四五枚目表六行目までとなる。)と同一であるから、これを引用する。但し、次の付加、訂正、補足をする。

1  原判決二五枚目裏一行目の末尾に「第三一、三二号証」を加え、同裏四行目の「昭和四〇年」を「昭和四〇年一一月」と、同二六枚目表五行目の「呼称する。)が、を「呼称する。)こと、」と、同表八行目の「組合員となった」を「中心的な組合員として活動してきた」と、それぞれ改める。

2  同二六枚目表末行の「甲A第一号証、」)の次に「第三号証の一、第七号証」を加え、同枚目裏一〇行目の「被告は」を「第一審被告姫路工場ネスカフェ製造課の高橋、下原両課長は、」と改める。

3  同二八枚目表九行目の「約四か月間」を「約二年五か月間」と改め、同二九枚目表五行目の「手付かずのままであった」の次に「(原審証人下原忠行の証言)」を加え、同行目の「中途半端の観」を「中途半端の感」と改める。

4  同二九枚目裏四行目の「はじめに」から同五行目の「総合すると、」までを削り、同裏七行目から同八行目にかけて「あったことができ、右認定に反する証拠はない」とあるのを「あったことは当事者間に争いがない」と改める。

5  同三〇枚目二行目の次に次項を挿入する。

「なお、勤務時間の点も同様であり、第一審原告大原の勤務時間(午前八時三〇分から午後五時三〇分まで)が、プラント職場の通常の勤務形態である三交替制に比して苛酷なものであったと認めることはできない。」

6  同三〇枚目裏八行目の「回収作業場所は、」を「回収作業場所(六番倉庫)は、工場内に搬入されたコーヒー豆を貯蔵しておく倉庫であり、」と、同三一枚目表三行目から同四行目にかけて「時間帯が」とあるのを「時間帯は」と、それぞれ改める。

7  同三一枚目表一二行目の次に次項を挿入する。

「(二) 採光

右倉庫は、天候の悪い日には電灯をつけてもうす暗いような状況であった。」

8  同三一枚目裏二行目の「避暑・防寒及び防塵」を「防暑、防寒、防じん及び採光」と改める。

9  同三二枚目裏三行目冒頭から同五行目までを全部削り、そこに次項を挿入する。

「たのである。そして、同第一審原告がしたような態様で同作業に従事すべき必要性が特に認められない以上、右作業は、プラント職場の通常の作業に比して相当に苛酷であり、同第一審原告に精神的苦痛を与えるものであった。」

10  同三二枚目裏末行から同三三枚目表一行目にかけて「右作業は同原告が初めて専属的に行ったものであり、」とあるのを「右作業を専属的に行ったのは、同第一審原告の前には第一組合員の山田のみで、その期間もせいぜい数か月であったし、」と改める。

11  同三三枚目表末行の「作業場所は」の次に「従来その作業が行われていた場所とは異なり、」を同枚目裏一〇行目の「割合であった」の次に「(なお、同種のフィルターは全部で一一個あった。)」を加える。

12  同三四枚目表九行目の「相当すると、」の次に「争いのない乙A第一号証及び」を加え、同表一一行目の「成立に争いのない乙A第一、第二号証」)を「前掲乙A第一号証、成立に争いのない同第二号証」と、同三五枚目表二行目の「従前の業務」を「従前の業務ないしこれと同等の業務」と、同表四行目の「当然に同原告を」を「当然に」と、それぞれ改める。

13  同三五枚目裏八行目から同三六枚目表三行目までを全部削り、そこに次項を挿入する。

「四 損害賠償

以上によれば、第一審原告大原は、前記認定のとおり、労働協約に違反して、劣悪なあるいは隔離された職場環境のもとで、かつ長時間にわたり専属的に、コーヒー豆回収作業等の前記各作業を行うことを上司から命じられたものである。

さて、不法行為法上の保護法益である人格権とは、自由、名誉がこれにあたることはもちろんであるが、更に、本件のように、被用者が、使用者側から、労働協約に違反した明らかにいやがらせといえる著しい隔離的、差別的取扱いにあたる作業に従事することを命じられ、被用者がこれに応じて屈辱的な就労を余儀なくされた場合、被用者は、自由、名誉等に準じた個人の人格権が侵害されたものとして、これによって生じた精神的苦痛に対する損害の賠償を使用者に求めることができると解するのが相当である。

この視点に立って本件を観ると、前記命令による第一審原告大原の就労は、同第一審原告に対する人格権の侵害となることは、いうまでもない。そして、同命令は、第一審被告の被用者らが、その職務の執行として行ったことは明らかである。

そうすると、同第一審原告は、第一審被告に対し、民法七一五条一項に基づき、その被った精神的損害に対する慰藉料を請求できるところ、前記各不法行為の態様及びこれが加えられた期間が四年半の長きにわたっていることなど本件に顕われた諸般の事情を総合すると、右慰藉料額は、金七〇万円が相当である。」

14  同三六枚目表八行目の末尾に「、」を加え、同表九行目の「昭和五八年四月、」を「昭和五八年に」と改め、同表一一行目の「及び金券の処理作業」を削り、同表一二行目の争いがない。」を「争いがなく、原審での第一審原告椿の本人尋問の結果によると、同第一審原告は、右作業を同年八月末ころまで行ったことが認められる。」と、同三七枚目表二行目の「後は、」を「後には、」と、同表三行目の「背表紙」を「表紙」と、それぞれ改め、同表四行目冒頭の「方法」の次に「(のりづけが著しく困難となる)」を加え、同表六行目の「パンチカード」を「パンチカードの穴のあいていない部分を使用してメモを作成せよとの指示があり、」と改め、同表八行目の「作成したこと、」の次に「従前このような作業に専属で従事したものはいなかったこと、」を加え、同枚目裏四行目に「むしろ、弁論の全趣旨によると、」とあるのを「むしろ、原審での第一審原告椿の本人尋問の結果により認められるところの同第一審原告の申請にかかる人格権侵害禁止仮処分の審尋が行われたころ以降に同第一審原告が右作業をやめるよう命じられているとの事実等に照らすと、」と改める。

15  同三七枚目裏八行目冒頭から同一〇行目まで)を全部削り、そこに次項を挿入する。

「前掲甲A第三号証の一、成立に争いのない甲C第一号証の一ないし四、第一四号証の二、原本の存在及び成立に争いのない乙C第四号証、官署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については弁論の全趣旨により成立の認められる甲C第一五号証、原審での第一審原告椿の本人尋問の結果により成立の認められる同第二号証の一、二、第三号証、第六号証の三、四、第二〇号証、弁論の全趣旨により成立の認められる同第五、六号証の各一、二、第一三号証、第一四号証の一、第一六ないし第一九号証、第二八号証、原審での第一審原」

16  同三八枚目表四行目の「昭和五八年四月二二日付けで」を「昭和五八年三月二二日付けで、同年四月二二日に」と、同表五行目の「復職させる旨」を「組合専従者から解任する旨(従って同第一審原告を復職させるべき旨)」と、同表七行目の「復職通知」を「組合専従者から解任する旨の通知(復職させるべき旨の通知)」と、同表八行目の「以降も続いた。」を「以降も、同第一審原告となんら関係のない第二組合が同年五月一三日付けでした同第一審原告の組合専従者解任通知(復職させるべき旨の通知)なるものをうけて第一審被告が指定した復職日である同年六月一三日まで続いた。」と、それぞれ改める。

17  同三八枚目表九行目の「同年六月一三日、」を「第一審被告の指定した同年六月一三日に出勤した」と改め、同行目の「同原告に対し、」の次に「高橋部長、人見係長らが、」を加え、同枚目裏五行目から同六行目にかけて「この用紙には表紙を付けないため」とあるのを「この用紙は」と改める。

18  同三九枚目表八行目の「昭和五八年初ころ、」を「昭和五八年七月初めころ、」と改め、同表九行目の「廃棄用金券」の次に「(第一審被告の商品と一緒に入れる景品券)」を加え、同表一〇行目の「右作業に従事した」を「右作業にも時々従事した」と、同裏一行目冒頭の「ことを命じたこと」を「ことやエプロンの着用を命じたこと」と、それぞれ改める。

19  同四〇枚目表一行目の次に次項を挿入する。

「4 英文マニュアルの和訳

成立に争いのない乙C第一五号証、原審証人高橋正の証言及び原審での第一審原告椿の本人尋問の結果によると、第一審原告椿が、昭和五八年七月中旬に高橋部長から工場建設の際の会計処理に関する英文マニュアルの和訳を指示され、当初は一日一時間くらい、その一月後からは一日二時間くらいこれに従事したことが認められるが、右英文の文書は、二〇年以上も前の古い文書であったこと(同第一審原告の本人尋問の結果)、勤務時間中にこうした業務に携わったのは同第一審原告が初めてであったこと(原審証人高橋正の証言)からすると、同第一審原告が会計業務に従事する訓練としてどこまで意味のあるものであったかは疑問である。

5 その他のいやがらせ行為

前掲甲C第六号証の一ないし四、第七、一三号証及び原審での第一審原告椿の本人尋問の結果によると、第一審原告椿は、昭和五八年六月から八月にかけての期間中、第一審被告の従業員らから、外部からの電話をとりついでもらえなかったり、とりかこまれて罵声を浴びせられる等のいやがらせをされたことが認められる。」

20  同四〇枚目表三行目の「本件の帰結」を「原職復帰の該当性」と、同表七行目の「従前と同様の」を「従前と同様ないし同等の」と、同表一一行目の「前判示(一)」を「前判示一」と、同四一枚目表七行目の「決算期」を「六月末の決算期」と、それぞれ改め、同表九行目の「在庫照合等であり、」の次に「この仕事は」を加える。

21  同四一枚目裏一〇行目冒頭から同四二枚目表五行目までを全部削り、そこに次項を挿入する。

「四 損害賠償

以上によれば、第一審原告椿は、前記認定のとおり、労働協約に違反して、メモ作成作業、金券廃棄作業等の単純作業に専属的に従事することを第一審被告の従業員らから命じられてその就労を余儀なくされたばかりか、その作業の過程で種々のいやがらせを受けたものである。したがって、これらが、同第一審原告に対する前述した意味での人格権の侵害となることは、いうまでもない。そして、同命令は、第一審被告の被用者らが、その職務の執行として行ったことは明らかである。

そうすると、同第一審原告は、第一審被告に対し、民法七一五条一項に基づき、その被った精神的損害に対する慰藉料を請求できるところ、前記各不法行為の態様及びこれが加えられた期間など本件に顕われた諸般の事情を総合すると、右慰藉料額は、金五〇万円が相当である。」

22  同四二枚目表六行目の「第五」を「第四」と、同表一〇行目の)の「甲D第一一号証の二、三、」を「項D第五ないし一〇号証、第一一号証の一ないし三、」と、それぞれ改め、同表一一行目の「第一一号証の一、」を削る。

23  同四二枚目裏二行目冒頭の「していた」の次に「(なお、同第一審原告は、昭和四五年八月に旧組合に加入し、その後積極的に活動していた。)」を加え、同行目の「午後〇時過ころを「午後零時過ぎころ、」と、同裏八行目の「罵声を浴びせられていたこと」を「罵声を浴びせられ、体をこづく、服を引っぱる等されていたこと」と、同裏一一行目の「罵声を浴びせながら、」を「罵声を浴びせる等右と同様の行為をしながら、」と、同四三枚目表二行目の「罵声を浴びていたこと、」を「罵声を浴びせられる等していたこと、」と、それぞれ改める。

24  同四三枚目表八行目の「腹部挫傷」を「加療一週間を要する腹部挫傷」と、同表九行目から同一一行目にかけて「被告本社に申入れをなしたことについて、藤原らが松浦らを吊しあげた」とあるのを「松浦らとともに、第一審被告本社において、第一組合員らに対する不当な行為をやめるよう申入れをしたことについて、翌二二日以降、藤原らが、松浦らを吊しあげた」と、それぞれ改め、同枚目裏一行目冒頭から同七行目までを全部削る。

25  同四三枚目裏九行目の冒頭に「1」を加え、同裏一一行目の「前掲各証拠によれば、」の次に「本件暴行が加えられる以前に、松浦、赤井、第一審原告坂本らが、同部事務室内で第一審被告の従業員らから罵声を浴びせられ、体をこづく等されていたこと(これに反する原審証人小澤聡の証言は採用しない。)」を加え、同四四枚目表一行目から同二行目にかけて「前記課長ら」とあるのを「前記部課長ら」と改め、同表九行目の「移動したため」の次に「これに近寄ってその成り行きを傍観していたもの」を加え、同表一〇行目の「課長ら」を「部課長ら」と改め、同表一二行目の「あるため、」の次に「同様に」を、同表末行の「のみならず、」の次に「(少なくとも右部課長らが自ら第一組合員らに罵声を浴びせる等したり、これについて積極的に他の職員らを指揮、せん動していたことを認めるに足る確たる証拠はない。)」を、それぞれ加える。

26  同四四枚目裏一行目冒頭から同四五枚目表六行目までを全部削り、そこに次項を挿入する。

「本件暴行は、前記認定のとおり、突然になされたものであり、その程度も、その以前に前記事務室内で第一審被告の従業員らが松浦、赤井、第一審原告坂本らに対してした服をひっぱる、体をこづく等の暴行とは性質を異にし、同第一審原告の両腕をつかんでロッカーにぶつけたうえ手拳で腹部を殴り、加療一週間を負わせるに至ったという激しいものであり、またこれが行われた場所もエレベーターホールに通じる廊下であって、部外者の通行等も予想され、事務室に比較すれば、計画的に集団で暴行をするのに適さない場所であるうえ、前記部課長ら管理職が藤原らの本件暴行を具体的に指揮、せん動したことを認めるに足る証拠もない。

そうすると、藤原らが第一審原告坂本に対して行った本件暴行は、前記部課長らの指揮、せん動による計画的、集団的暴行であると認めることはできず、むしろ、藤原らの個人的な意思に基づく、その意味で偶発的なものであったと認められる。

2 以上によれば、藤原らが第一審原告坂本に対して加えた本件暴行を目して第一審被告の会社ぐるみの組織的計画的暴行とみるわけにはいかない。したがって、第一審被告が、民法七〇九条により、右暴行の責任を負うべきであるとの同第一審原告の主張は理由がない。

また、右暴行が、第一審被告の購買運輸部部課長らの指揮、せん動によって行われたことも、藤原らの職務の執行の過程で、かつこれと密接な関連のもとに行われたことも、いずれもこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると、右暴行は、第一審被告の被用者の職務の執行につき行われたものとはいえないから、右暴行について、第一審被告が民法七一五条一項により責任を負うべきであるとの第一審原告坂本の主張は理由がない。」

二  そうすると、第一審原告大原、同椿の本件請求は、第一審被告に対しそれぞれ損害賠償金七〇万円及び金五〇万円とこれらに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明白な昭和五九年六月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却すべきであり、また、第一審原告坂本の本件請求は理由がないから棄却すべきであるところ、右と同旨に出た原告判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないことに帰着する。そこで、本件控訴をいずれも棄却することとし、民訴法九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古嵜慶長 裁判官 上野利隆 裁判官 瀬木比呂志)

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